|
牙ー江夏豊とその時代
後藤正治
「江夏ー田淵。二人は、タイガース史上、もっとも華やかなコンビだった。田淵は病明けの年は外野や一塁も守ったから、バッテリーの実働は数年である。ONとの違いは、互いにどこか弱さともろさを帯びていたことだろう。それがまた、夜空に流れる帚星のごとく、消え行くゆえの煌めきを残している。」(第五章「黄金バッテリー」より)
昭和44年、田淵が22ホーマーを打って新人王に輝いた年からの阪神ファンとしては、まさに「巻を置く能わず」状態。江夏豊とその時代というサブタイトル通り、江夏一人の生き様にとどまらず、阪神時代の江夏を取り巻く田淵、川藤らチームメートの逸話や、好敵手・王貞治をはじめとする巨人の選手たちの思い、さらには昭和40年代のプロ野球が持っていた独特の輝きが、綿密な取材を通じて見事に描き出されている。
甲子園の空に無数の美しい放物線を描いた田淵と、V9巨人の前に敢然と立ちはだかり牙をむいた江夏。選手生活半ばで阪神球団から冷たく放り出された二匹の虎が、今もなお率直に縦縞への愛着を口にする様は、ファンにとってはまさに感涙である。
江夏の言ーー。「南海でリリーフを覚えた、広島で日本一になった、ハムでも優勝したといっても、タイガースとは比較にならない。それは全然違う。・・・(中略)・・・縦縞は僕の青春そのものが詰まってるユニフォームであって、その意味で棺桶に入れるユニフォームは一枚しかないということです。」
田淵の言ーー。「この一枚ということでいえば、それはどうしたって縦縞になりますよ。あの甲子園、あのファン、伝統に培われたタイガースというチームにはやはり格別のものがある。」(第五章「黄金バッテリー」より)
(2004/2/1更新)
|