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海神−孫太郎漂流記
安部龍太郎
「腰帯の間にはさんだ地図が正しいのなら、その方向に懐かしい九州があるはずである。
唐泊の海ぞいの家で、母が孫太郎と仁兵衛の帰りを待っているはずだった。
(父ちゃん、どげんすりゃよかね。どげんすりゃ帰らるっとね)
心細さに泣きたくなった。孫太郎はまだ二十歳である。これほど過酷な状況の中で皆をまとめていくには、経験も力も足りなかった。」(「族長の首」より)
江戸時代半ば、突風のために乗っていた船が難破し、百日間の漂流の末に南国の島に漂着した水夫孫太郎が、島から島へと流転を続け、奴隷に身を落とすなどの苦難を乗り越えながら、一人前の男として成長していく物語。海洋冒険小説の大家である直木賞作家・白石一郎の作品を思い起こさせる、恋あり冒険ありサスペンスありの、いわゆる漂流譚の秀作だ。おまけに、あとがきを読むまでは全くのフィクションとばかり思っていたが、実は「南海紀聞」という実在の文献(孫太郎への聞き書きをまとめたもの)をベースに脚色を加えた歴史小説であった。へぇ〜、孫太郎ってホントにいたんだ...。
それにしても、「関ヶ原連判状」「風の如く 水の如く」をはじめ、この著者の作品はハズレが少ない。
「父は嵐の海に落ちたのではない。人間としての尊厳を守り通し、最期の瞬間まで自分や母のことを思いつづけていてくれたのだ。
このことに孫太郎は大きな感動を覚えた。
(父ちゃんは海神さまにならしたとかも知れん)
人の弱さを克服した者は神になる。神となって生きる者の支えとなる。自分が窮地におちいった時に何度も救いの声が聞こえたのは、父が海神となって守っていたからにちがいない。」(「虹の旅人」より)
(2004/2/27更新)
*安部龍太郎のその他の本:「神々に告ぐ」「生きて候」
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