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近藤勇白書
池波正太郎
「顔をあげて何かいいかけた沖田総司が顔をゆがめて、がっと血を吐き出した。
『あっ・・・・』
勇、愕然とした。
『そ、総司・・・・』
志士たちは廊下から階下へさらに二階の窓や物干場から中庭や戸外へ・・・・それぞれに脱出をはじめている。
『だ、大丈夫』
沖田は、勇の腕をはらい、よろりと立った。」(「戦火」より)
「新選組!」を初回から見続けていて、どうしても馴染んで来ないのが香取慎吾の近藤勇ではないだろうか。別に香取君の演技がどうこういうつもりはない。あまりに二枚目で愛嬌があり過ぎるため、これまで史実や写真で見聞きして来た近藤勇のイメージと、いつまでも重なって来ないのである。「もててもてて困っちゃうなあ」などと知人への手紙で自慢したほど男前だった土方と違い、実際の近藤はまさに鬼瓦みたいな顔なのだから。
それはさておき、本書は先に読んだ「幕末新選組」と同工異曲とも言うべき作品。局長としての生き様だけでなく、良き家庭人としての近藤勇が情感豊かに描かれているのがいかにも池波作品らしい所である。
「つねがとめる隙をあたえず、編笠を取った勇が、すっと立ち上ったかと重うと、もう、勝手口の外へ出ていた。
『あっ・・・・』
つねは、狼狽し、外へ走り出ようとした。
『かまうな。すぐに、また来る』
『あ、あなた・・・・』
はだしで走り出たとき、勇は植込みの向こうの枝折戸を開け、小さな門から出て行ってしまっていたのである。
この夕暮れの一時が、近藤夫婦の永別となった。」(「挽歌」より)
(2004/3/12更新)
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