酒本舗
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三月の酒と本(五)

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最近飲んだ酒 近頃読んだ本
龍泉

龍泉(大阪)
特別純米酒生
720ml/1180円


茨木にある中尾酒造の銘柄。一昨年の冬、私は醸造体験とSAKE王国の取材を兼ねて、三日間にわたりこの蔵に寝泊まりして酒造りを体験させて頂いた。驚くなかれ中尾酒造では、洗米から搾りに至る全工程を中尾宏専務兼杜氏がたった一人でこなしている。(詳細はSAKE王国「酒材班がゆく」を。)
さてこの龍泉。購入時に中尾専務から「熱燗にするとエエ味出ますよ」とわざわざ言われた。おいおい生酒だよ、せいぜい“ぬる燗”じゃないの?と確認すると、「いや熱燗です」と断言されたのである。自宅に持ち帰り半信半疑のまま冷蔵vs.熱燗で飲み比べた。ふむ、冷えたヤツも米の風味が立って旨いが、熱燗にするとキリッと味が引き締まった上、一層コクと旨味が増した。生酒をぬる燗で、というのはたまに雑誌記事等で見かけるが、生酒の熱燗は初めての経験。やはり日本酒は奥が深い。

新選組始末記

新選組始末記
下母澤寛

「歴史を書くつもりなどはない。ただ新選組に就ての巷説漫談或は史実を、極くこだわらない気持で纏めたに過ぎない。従って記録文書のわずらわしいものは成るべく避けた。しかし近藤勇という人物には、ちょっと面白いところがあると思った。いい、わるいは別として、本当に憎めたり、本当に泣いてやったりの出来る人間である。」(巻頭言より)

今からちょうど30年前、1974年のNHK大河ドラマは下母澤寛原作の「勝海舟」だった。当時六年生だった私は、単純に「勝海舟」という字面のカッコよさに惹かれ、何の予備知識もないままなけなしの小遣いをはたいて上中下三巻の原作を購入した。攘夷とか、大政奉還とか、幕末ならではの用語の意味さえ知らない無謀な読書だったため、結局ほとんど内容を理解できなかったが、これがそもそも幕末史に触れるきっかけとなった。
さて本書は、当時まだ新聞記者だった著者が昭和三年に出した処女出版作であり、後の「新選組遺聞」「新選組物語」と合わせ新選組三部作として広く知られている。史実と巷説を新聞記者ならではの現地踏査と聞き取り調査によって再構成し、隊士達の生き様を客観的に描き出した実録であり、今や新選組研究の“原典”“定本”と呼んでも過言ではない。
何しろ本書が世に出るまで、新選組イコール“勤王の志士に群がる虎狼の如き人斬り集団”だと、大多数の国民は思っていたらしい。まさに新選組の歴史的評価を変える発端となった記念すべき書であった。
ついでながら、あの「座頭市」の原作者も下母澤寛である。

「剣戟閃めく中に、京の夏の夜は明ける。新選組が、壬生の屯所へ引揚げの時の沿道は見物の人をもって埋まった。沖田は幸に元気が恢復したので、隊士に看護されつつ歩いているが、藤堂は血だらけのまま釣台で運ばれ、永倉も全身血だらけであった。
隊は二列。近藤、土方は、微笑を含んで、あれ程の死戦をやったとは思われぬ程に落着いていた。
打合いのため、曲ったり、折れたりして鞘へ入らない刀は、みんな抜き身のままである。」
(「池田屋事変」より)


(2004/3/22更新)

 
灘泉

灘泉(兵庫)
純米しぼりたて生
720ml/1400円


灘五郷といえば大手ブランドによる量産イメージが強いが、この灘泉は泉勇之介社長以下たった3名で醸す小さな蔵。風情のある木造の建物は古き良き酒蔵そのものなので、機会があればぜひ覗いてみてほしい。
さてこの純米しぼりたて生酒は、前年より商品化したばかりの新顔。アルコール度数はやや高めの17-8度でボリューム感があるものの、みずみずしい麹の風味とキレの良さについ杯が進む。「灘の酒大学」の卒業記念パーティが同蔵で開かれた際に、数品のオードブルと共に供されたが、食中酒としてもなかなか。実は泉社長が杜氏を務められたのは今期が初めてのことで、「なかなかイケますね」と感想を述べると、「ほう、そうでっか」と目を細めつつ杯を重ねられていた。

   

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