| 隠し剣孤影抄
藤沢周平著
「廊下の端に、堀が姿を現したとき、宗蔵もこちらから歩き出した。宗蔵が腰をかがめて、二人は擦れ違った。堀は立ちどまって、擦れ違った宗蔵を見ようとしたようだった。少し首をねじむけた姿勢のまま、堀は不意に膝を折り、前にのめった。」(「隠し剣鬼の爪」より)
「たそがれ清兵衛」に続き、次は「隠し剣」シリーズが映画化されると聞いて、久々に読み返してみた。何を隠そう、藤沢周平の作品は全編読破し終えた程の大ファン。ストーリーの面白さもさることながら、時代小説における文章の味わい深さと美しさでは、この人は文句なしのNo.1だと信じてやまない。情景描写の文章につい引き込まれてしまう数少ない作家である。
さてこの「隠し剣」シリーズ、剣豪ものの短編集ではあるが、主人公はいずれも何らかの形で生活に問題を抱えており、いわゆるスーパーヒーローは一人も存在しない。ただそんな等身大の主人公達が、この時を置いて他にないというギリギリのシーンで秘剣・魔剣を繰り出し、読者に胸のすくような一瞬のカタルシスを与えてくれる。
「十太夫は深ぶかと膝を斬られていた。手をあててみるまでもなく、伊部の一撃が骨を断ったと知れている。
--年寄って、前のようにはうまく跳べなんだな。
喘ぎながら、十太夫はそう思った。しかし跳びながら放った、鬼走りの詰めの一撃が、伊部の顔面を斬り割ったことはわかっている。」(「宿命剣鬼走り」より)
(2004/7/11更新)
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