|
長いお別れ
レイモンド・チャンドラー著/清水俊二訳
「ぼくは店をあけたばかりのバーが好きなんだ。店の中の空気がまだきれいで、冷たくて、何もかもぴかぴかに光っていて、バーテンが鏡に向かって、ネクタイがまがっていないか、髪が乱れていないかを確かめている。酒のびんがきれいにならび、グラスが美しく光って、客を待っているバーテンがその晩の最初の一杯をふって、きれいなマットの上におき、折りたたんだ小さなナプキンをそえる。それをゆっくり味わう。静かなバーでの最初の静かな一杯−こんなすばらしいものはないぜ」(第4章より)
しばらくぶりにチャンドラー畢生の傑作と呼ばれる本書を読み返した。初めて読んだのは20代前半の頃。当時、バーへ行けば必ずギムレットを注文したものだった。CAMELを吸い始めたのも、バーボンを飲み始めたのも、すべては主人公フィリップマーロウがきっかけ。
ただ今回は、自分自身がマーロウと同い年になった分、これほど味わい深いセリフが多い本だったのかと改めて気づかされた。日常生活でうっかり使えば鳥肌が立ちそうな気障な言葉が多いものの、それがまた、ハードボイルド小説を読む魅力の一つでもある。
ちなみに本書でのギムレットのレシピは、「ジンとローズのライム・ジュースを半分ずつ、ほかには何も入れない」ということになっているが、この通りに作るとかなり甘めのギムレットになるらしい。今度行きつけのバーで試してみようか。
彼は手を顔にあげて、色眼鏡をはずした。人間の眼の色はだれにも変えることができない。
「ギムレットにはまだ早すぎるね」と、彼はいった。(第52章より)
(2004/11/2更新)
*レイモンド・チャンドラーのその他の本
「大いなる眠り」
「世界の名探偵コレクション10フィリップ・マーロウ」
「ロング・グッドバイ」
|