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あふれた愛
天童荒太著
笑いは、やがてすすり泣きに変わった。自分の無力さがあらためて悲しく、みじめだった。足もとから力が抜ける。立っていられず、その場に座り込もうとした。
背中を抱かれた。
さほど太くない腕が、からだに回され、耳もとに、
「やっていけるよ」
と聞こえた。かぼそいけれど、芯に強さを感じさせる声だった。(「やすらぎの香り」より)
読後感に重苦しさを感じたり、悲劇的結末で終わると分かっている本は苦手な性分である。というわけで天童荒太という作家は、妙に気になりつつもイメージ的に“食わず嫌い”だったが、古本屋でぱらぱら頁を捲るうちに、まあこれなら大丈夫かなと思い購入した。
4つの短編はいずれも、恋人や妻など身近な人とうまく向き合えず、周りも傷つけ、自分自身も傷ついていく主人公による、再生への物語。こうした“静かなる家庭崩壊”をテーマにした本やドラマに触れるたび、子供の頃から私を一人の人格として認め、温かく見守りつつ好き勝手にやらせてくれた親に感謝したくなる。ただ放任された分、あんたはビミョーに常識を欠いていると人に言われることも少なくない・・・。
「話、聞くよ」
彼女は答えない。
「無理にはいいけどさ。話したくなったら、話せよ。何もできねえけど。ちゃんと聞くから。聞くことだけはするから」
美季はやはり何も言わなかった。背後にいるため、表情も見えない。しばらくして、喉が鳴る音が聞こえた(「喪われゆく君に」より)
(2005/1/11更新)
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