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全宗
火坂雅志著
「人の力で天命を変えるなど、不遜とは思われぬのか」
「いや、私は不遜とは思わない」
全宗は、きっぱりと言いきった。
「天命を変えられぬというのであれば、医家の仕事はあまりにむなしすぎる。そうは思われぬか、半兵衛どの」
全宗は相手の澄んだ目を睨むように見た。
風が、過ぎた。(第七章「湖国の風」より)
本書に出会うまで、施薬院全宗という人物の名も足跡も全く知らなかった。秀吉の側近(侍医)として「望むところ必ず達す」とまで言われ、絶大な力をふるった実在の人物である。過去読んだ太閤記をはじめとするいわゆる“秀吉もの”の中に登場していたのかもしれないが、全く印象に残っていない。が、この作品を通じて、医学への貪欲な迄の知識欲と権力への野心に満ちたアクの強い人物像が、しっかりと心に刻まれてしまった。まさに、「本書の成功の第一要因は戦国時代を生きた数多くの人物の中から全宗を発見したところにある」と巻末の解説に書かれている通り。作家にとっては、まさに掘り出し物の歴史人物であったろう。
そして火坂雅志という作家についても、本書で初めてその実力の一端を垣間見た。読みやすさと、豊富な語彙に彩られた品の良さが並立しており、テンポ良く読み進めながらストーリーもしっかり頭に入ってくる。
秀吉とともに戦場で嗅いだ硝煙と血の匂いが、ふと鼻孔によみがえった。
(あの苛烈で、野心に満ち、獣のように強靱な魂で駆け抜けた我らの時代は終わったのだ・・・・・)
全宗は研ぎ澄まされたようなするどい光をふくんだ目で、闇の満ちた庭を見つめつづけた。(第十三章「帰去来」より)
(2005/4/7更新)
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