| 江戸の海
白石一郎著
「天涯孤独か・・・・いちどそんな身分になってみたい」
「どうしてです」
「家族を六人も抱えてみろ。どんなに煩わしいか、おぬしには判るまい。ましてや狭い国もとの城下町、侍ぐらしには体面やら体裁やら、身分の上下やら・・・・とにかく面倒なことばかりだ」(「勤番ざむらい」より)
歴史小説から民話風小説、海洋小説まで、まさに白石一郎の世界を一望できるかのような、味わい深い十編の短編小説が収録されている。
さて、最近古本屋で購入したばかりの本書。全編を十二分に堪能し、(ああ、さすがに巧い作家だなあ・・・)などと思いつつ、書棚へ置こうとして愕然とした。何と目の前に、全く同じ文庫本の「江戸の海」が、既に書棚の中に鎮座していたのだ。かつてどういう状況で、いつ読んだのか全く記憶にない。同じ本を敢えて二度以上読むことは多々あるが、全く気付かないまま二度目の通読をし、まるで初めて読んだかのように満足したというのは初めての経験だ。
女たちは亭主など忘れて、それぞれに逞しく生きている。
清二郎と軍次がどこで何をして生きていようと、もうこの島には何のかかわりもない。
女たちに知らせる必要もなければ、女たちも知る必要はない。
あの二人の勝手な男のことは、きれいさっぱり忘れることにしようと、理兵衛は苦笑しながら考えていた。(「夕凪ぎ」より)
(2005/7/24更新)
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