| 義経
司馬遼太郎
都には、貴族の栄華がある。
この物語は、そういう古い世のことだ。しかし人間の歔くこと笑うことは、いまもむかしもかわらない。(「寝腐れの殿」より)
一途で純粋で情けに厚く、こと戦にかけては誰にも負けない才能を持ちながらも、世間と自分の「常識」の間の決定的な乖離に気付かずに周囲から無用な誤解を招き、悲劇的な最期を遂げる義経。いわゆる判官贔屓という情緒的な想いではなく、十数年前に初めて読んだ時には気付かなかった義経の滑稽なほどの悲劇性が、今回は身にしみるほど理解できた。(自分では正確に把握しきっていないが、)残念ながら同じ社会的常識に欠ける(らしい)一人の人間として、かなりの親近感と同情を覚えながら本書を読み切った。
ついでながら、文庫本上下冊計800ページ強の長編でありながら、義経の都落ちから結末の討ち死までわずか2ページしか割かれておらず、それまでのペースからすれば唐突さは否めない。有名な弁慶の立ち往生にさえ一言も触れていない程だ。思うにこの幼児性の強い、愛情に飢えた哀れな戦の天才の末路を丹念に描くのが、作者としてもあまりに忍びなかったのだろう。
要するに頼朝の全存在は関東・東海の武士団の利益代表であるということであり、それ以外のなにものでもなく、そのことはかれは流人生活二十年を通じて知りすぎるほどに知っている。
ーーところが、義経はそれがまるでわからない。
ということが、いまや頼朝の憎悪になっていた。(「腰越状」より)
(2005/9/4更新)
*司馬遼太郎のその他の本:
大盗禅師/城をとる話
宮本武蔵
新選組血風録
侍はこわい
以下、無用のことながら |