|
東京居酒屋はしご酒
伊丹由宇著
「伊勢藤」と双璧を成すと思われるのが、根岸の「鍵屋」である。
江戸末期安政3(1856)年に創業、現在のご主人・清水堅太郎さんは、なんと六代目となる。最初は酒屋だったが、やがて居酒屋になったという歴史も興味深い。
永井荷風も通ったというこの店に入ると、そこは時代劇のセットそのものである。(第一章「春の章」より)
根岸の「鍵屋」に初めて行った時は驚いた。JR鶯谷駅から徒歩5分。住宅街の路地に佇む外観は、それこそ何でもない木造の古い民家であるが、暖簾を潜って中に入るや、上の一文にもある如くまさに時代劇のセットそのもの。電球色の灯りの下、何とも言えない温かい空気が漂う。
お通しは毎度薄く味付けられた大豆の煮豆、肴は薄い板の上に墨文字で書かれた定番の10数種で、田楽、鰻のくりから焼、煮奴(鶏・玉葱・豆腐をすき焼風に煮込んだ小鍋立て)辺りがオススメ。酒は灘の櫻正宗、菊正宗、大関の3種のみで、お燗番の亭主が手のひらで徳利の温度を確かめながら、絶妙の燗をつけてくれる。創業は江戸末期の安政年間。今の建物は二代目らしいが、お江戸の居酒屋文化の懐の深さを思い知らされる一軒。
いい居酒屋の最低の条件は、主人や店の人の応対が親切で期限が良いことである。主人の態度が横柄だったり、店員が不機嫌だったら、その店はすぐに去って、二度と行かないこと。「店の空気が冷たい店」にいい店はない。雰囲気も味の内であり、値段の内である。(コラム3「いい居酒屋の見つけ方」より)
(2005/10/16更新)
|