| 異邦人
カミュ著/窪田啓作訳
私は汗と太陽とをふり払った。昼間の均衡と、私がそこに幸福を感じていた、その浜辺の異常な沈黙とを、うちこわしたことを悟った。そこで、私はこの身動きしない体に、なお四たび撃ちこんだ。弾丸は深くくい入ったが、そうとも見えなかった。それは私が不幸のとびらをたたいた、四つの短い音にも似ていた。(第一部より)
要約すれば、「本心を偽らないアウトサイダー的な主人公ムルソーが、自分に正直過ぎるが故に、犯した罪以上の重罪犯として欺瞞的な社会から断罪され、“異邦人”として不条理に葬られてゆく」物語。
その正直さは、例えば女友達マリイの「自分を愛しているか」という問いかけに。「それには何の意味もないが、恐らくは君を愛してはいないだろう」と、ごく自然に答えるところに象徴される。大抵の男は(同じ思いであっても)多分そうは答えない。「もちろん愛しているさ」とか何とか、女が満足する答を口にする方が賢明だと知っているから。
それにしても今の世の中。「太陽のせい」に近い些細なきっかけで自制心を失う(=キレる)人間が増えている。もし舞台が現代ならこの小説は成立しなかっただろうし、「太陽のせい」という殺人動機のフレーズも、文学史に残る程のインパクトを持ち得なかったに違いない。
そのとき、なぜか知らないが、私の内部で何かが裂けた。私は大口をあけてどなり出し、彼をののしり、祈りなどするなといい、消えてなくならなければ焼き殺すぞ、といった。私は法衣の襟くびをつかんだ。喜びと怒りのいり混じったおののきとともに、彼に向かって心の底をぶちまけた。(第二部より)
(2005/11/9更新) |