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沢木耕太郎
誰にも「それさえあれば」というもののひとつやふたつはあるような気がする。釣りさえできればという人もいるだろうし、音楽さえ聴ければという人もいるだろう・・・(中略)・・・私なら、とりあえず映画と書物とスポーツのゲームがあれば、と言うかもしれない。もしかしたらその三つに酒を加えてもいいが、それだと四つになって、少々バランスが悪くなってしまう。(「あとがき」より)
ここ数年、すっかり映画を観なくなってしまった。大学時代は毎月最低でも3本、卒業後も、かつて大阪・堂島にあった「大毎地下劇場」の会員になり、仕事帰りに旧作のリバイバルを楽しんだものだった。残念ながら時間と心に余裕がない今は、映画に2時間を割く気になれず、つい読書か酒、あるいはその両方を選んでしまう。ただ本書の映画評を読んでいるうち、ここで紹介されている数本の映画を無性に観たくなった。
それにしてもこの人の文章には、読み手を駆り立てる力があるなとつくづく思う。対象との距離の取り方、主観と客観の程よいバランス、そして独特のレトリックと、硬質ではあるが適度なウェット感と“熱”を帯びた文体。時にそのダンディズムが多少気障に感じる作品もあったが、やはり表現者としては今もなお憧れの存在である。
そこでハルバースタムは、一九四九年を闘った選手たちの、フロントの、ジャーナリストたちの、ファンの持つ「記憶」の収集に取り掛る。「記憶」は氷づけにされた「記録」に生命を吹き込む。そう、この『男たちの大リーグ』は、スポーツ・ライティングの基本が「記憶」にあるということを雄弁に物語るものなのだ。(「いつだって本はある」より)
(2005/11/14更新)
*沢木耕太郎のその他の本:
血の味 無名
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