酒本舗

BACK

九月の酒と本(三)

NEXT

最近飲んだ酒 近頃読んだ本
越乃梅里

越乃梅里(新潟)
純米吟醸生原酒/蔵囲い一年熟成
720ml/1400円


口に含むとふくよかな米の風味と旨味。コクはあるが原酒にしては16〜17度と軽めなせいか、比較的すっきりした軽めの飲み口。キレの良い後味の中にほんのり苦みが残るが、それもかえって長所になっている感がある。冷蔵庫から出して少し温度を上げてから方が一層旨味と膨らみが増す。
なお蔵元の小黒酒造は明治41年の創業。「越乃梅里(ばいり)」の銘柄は昭和58年からのもので、特定名称酒比率は75%に達しているとのこと。伊勢丹との取引を機に新潟県外での拡売機会を得、広く酒好きの注目を集められるようになったらしい。

五郎治殿御始末

五郎治殿御始末
浅田次郎

この男は十三年の間、仇を探してきたのではないと直吉は思った。桜田御門の綿雪の中にずっと立ちつくしていたのだ。歩み出すことも、遁れることも、死ぬことすらもできずに、彦根橘の御駕籠のかたわらに、十三年の間ずっと立ちつくしていた。
金吾の腕をすり抜けて、雪の上に落ちた血の色の椿を握りつぶし、十兵衛は泣いた。
(「柘榴坂の仇討」より)


明治維新後の激しく転変する世の中にあって、引きずってきた過去との折り合いの付け方に苦しむ男たちを描いた六つの短編集。“泣かせの”浅田節ではないが、時代背景を最大限利用しながら、ほろっと来させつつも爽やかな読後感を持たせるという、著者ならではの熟練の技である。文章もやっぱり巧いしね。
それにしても、武家政治の時代から四民平等の世へと急激に移っていった維新直後のこの時期。政治・行政の仕組みが激変したのは無論のこと、服装、髪型、暦、時間の観念、通貨等、暮らしの絶対的な基準と見なされていた様々なものがわずかな間に急変する世の中を生きるのって、一体どのような感覚なのだろう。

五郎治は始末屋であった。藩の始末をし、家の始末をし、最も苦慮したわしの始末もどうにか果たし、ついにはこのうえ望むべくもない形で、おのれの身の始末もした。
男の始末とは、そういうものでなければならぬ。けっして逃げず、後戻りもせず、能う限りの最善の方法で、すべての始末をつけねばならぬ。
(「五郎治殿御始末」より)


(2006/9/25更新)

 
 
   

TOP HOMEページへ