酒本舗

BACK

十月の酒と本(六)

NEXT

最近飲んだ酒 近頃読んだ本
幻の瀧

幻の瀧(富山)
吟醸
180ml/299円


環境省選定「名水百選」黒部川扇状地湧水群を使用した、派手さはないが堅実な旨さを持つ吟醸酒。後味もさっぱりとしていてどんな料理にも合わせやすい。ちなみにこの日の肴は鮭の白子ソテーと粕汁、南瓜のあんかけ。
蔵元は黒部市生地(いくじ)にある、明治20年創業の皇国晴(みくにはれ)酒造。敷地内には1日270トンも湧き出る「岩瀬家の清水(しょうず)」があり、仕込みは元より酒造りに関わるすべてをこの清水で賄っている。

孫文

孫文
(上)武装蜂起(下)辛亥への道

陳舜臣

小型蒸気船のなかで、孫文はこみあげてくる慟哭をけんめいにこらえていた。
盟友陸晧東の刑死を、広東をはなれる直前にきいたばかりである。彼は目をとじて、しずかに十字を切った。
十一年前、孫文と陸晧東は、ともに洗礼を受けた仲である。十字をひとつ切るにも、孫文は最も親しかった親友、陸晧東、洗礼名中桂を思い出さずにはおれなかった。
(「重陽の後」より)


この本の表紙と同じ写真が、かつて母の実家に額入りで飾られていた。確か私が四つか五つの頃だったと思うが、「この人は誰?」と曽祖母に尋ねると、「国父(guo fu)」と中国語で教えてくれた。変な名前だなあと思いつつ、何となく「偉い人」なんだろうなと子供心に思った。
本書を読んで、ようやくこの「偉い人」の前半生を少しだけ知ることができたようだ。
ちなみに私の住む神戸は孫文ゆかりの地として知られ、彼がこの地を訪れた回数は生涯で18回にも及んでいる。その際の滞在先の一つとして知られているのが、舞子浜にある移情閣(八角堂)だ。1984年からは「孫文記念館」となり文化財にも指定されているが、かつては私の友人一家が管理人として居住していて、小学生の頃は館内で卓球をしたり、布団部屋で跳びはねたりしてよく遊んだものである。

船内で一人になった孫文は、しずかに目を閉じた。
重陽蜂起失敗から十六年たっている。清国からみれば叛徒として追及され、香港からも五年間の居留禁止の処分を受けた。清国当局は日本、東南アジアの植民地政府に孫文の追放を要請し、彼には世界に安住の土地はなかった。アメリカでも努力して、居住の権利をやっと獲得したのである。
いま彼は誰に憚ることもなく、自分の二本の足で世界を踏みしめている。
(「是れ中原」より)


(2007/10/25更新)

 
 
   

TOP HOMEページへ