| 甲子園への遺言
伝説の打撃コーチ高畠導宏の生涯
門田隆将
「高畠導宏です。五九歳の新人です。私は、プロ野球という世界で三五年間、野球一筋に生きてきましたが、昨年の教育実習でみなさんと出会い、挑戦者魂が再び湧き起こりました」
紺のブレザーにグレーのズボン。額は見事なまでに広く、色浅黒いこの中年男は、挨拶のマイクを渡されるや、そう話しはじめた。(第一章「教壇に立った異色の新米教師」より)
NHKで放送された土曜ドラマ「フルスイング」の原作。ドラマは教師になってからの「高さん」を、史実を参考にしたフィクションで描いていたが、本書は主に本人の生い立ちと打撃コーチ時代のエピソードが大半を占めている。ドラマも実にすばらしい作品で、最終回から既に三ヶ月近く経っているにも関わらずまだ番組HPに熱い書き込みが寄せられている程だが、本書の場合は実話という事もあり、胸に迫る思いはドラマ以上の深さがある。
「私は、コーチになる時、よーし、ほめまくってやろう、選手をほめてほめてほめまくってやろうと思ったんですよ。」「プロの世界に入ってくる人間は、必ずどこかにいいところがある。・・・(中略)・・・だから私は、人より優れているその部分を徹底してほめようと思いました。以後三〇年、私は一度も選手を怒らずに通してきました」。高畠氏が亡くなる約三ヶ月前に行った講演での言葉だ。もちろん卓抜した技術論と指導力の裏付けがあっての事なのだろうが、コーチングの極意がこの言葉に集約されている様な気がしてならない。
「大丈夫やから・・・。なあ、みんな、大丈夫やから・・・」
意外な女子生徒たちの行動に、高畠の表情に戸惑いと嬉しさ、そして一抹の寂しさが浮かんだ。女子生徒たちの肩を抱きながら、高畠の声は詰まっていた。
「先生、がんばってください・・・」
「ああ、絶対帰ってくるとも」
二度と戻ることができないことを知りながら、高畠は生徒たちを逆にそう励ました。(第一六章「生徒の心の中に」より)
(2008/5/9更新)
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