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三国志(八)〜(十三)
北方謙三著
「・・・名もなき老兵が、ひとり死んで行く。私の死など、いまの蜀にとってはそうあるべきなのだ」
「名もなき、老兵がひとり」
趙雲が目を見開いた。躰が痙攣している。それを、抱くようにして姜維が押さえた。啜り泣きを誰かが洩らした。
「泣くな」
趙雲は、まだ眼を見開いている。
「男の別れだ。さらば」
趙雲の眼が、静かに閉じられた。(第十二巻「老兵の花」より))
男の死をどう描くか。その一点のために三国志という題材を選んだのかと思われるほど、八巻以降は英雄達の死が次々と、見事に、美しく描かれていく。周愉、関羽、曹操、張飛、劉備、趙雲、そして諸葛亮孔明。英雄が一人また一人と消える毎に、作者の筆が冴えを増す。英雄過剰でやや息が詰まる前半とは違って、人物描写に余裕が生まれ、尚かつ焦点が少しずつ孔明に絞られていくせいであろうか。
「ほかに、書き残すべきことは、なにもなかった。
自分の生涯を、ふり返ろうとは思わなかった。人は生き、人は死ぬ。それだけのことだ。ゆっくりと、歩いた。部屋の中だ。
闇が、近づいてくる。その闇に、孔明はかすかな、懐しさのようなものを感じた。闇が、さらに歩み寄ってくる。
自分が、笑ったのがわかった。」(第十三巻「遠き五丈原」より))
(2003/9/23更新)
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